居住形態として定着しているマンションですが、約10人に1人が分譲マンションに住んでいます。
今回は、マンションを購入する前に考慮すべきこと、について考えてみたいと思います。
マンションの歴史
日本で初めて賃貸マンションが誕生してから、すでに100年近くが経っています。
1953年には、東京都が分譲した「宮益坂ビルディング」が、日本初の分譲マンションとして登場しました。民間初の分譲マンションは1956年です。
意外と古くからマンションは建てられていたのですね。
その後、幾度かのマンションブームを経て、現在、分譲マンションの総戸数は約685.9万戸にのぼります。ここでいうマンションとは、3階建て以上の鉄筋コンクリート造などの住宅のことです。
築年数の古いマンション
今もなお、新築マンションの建設が続いていますが、その一方で、次第に築年数の古いマンションも増加しています。
下表をみてもらうと分かりますが、現在、685.9万戸ある分譲マンションのうち、約85%にあたる588.4万戸が、17年後には、築30年以上になるということです。
2021年末 | 2026年末 | 2031年末 | 2041年末 | |
---|---|---|---|---|
築50年以上 | 21.1 | 60.4 | 115.6 | 249.1 |
築40年~50年未満 | 94.5 | 109.3 | 161.9 | 176.3 |
築30年~40年未満 | 133.5 | 161.9 | 176.3 | 163.0 |
合計 | 249.1 | 331.6 | 425.4 | 588.4 |
30代半ばで新築マンションを購入した場合でも、定年退職するころには築30年が経っています。そう考えるとマンションの高経年化は予め考えておく必要がありますね。
マンションが高経年化した場合に起こり得ること
マンションの維持に必要なお金の一つに修繕積立金があります。一般的に長期修繕計画は、25年から30年分作成するとされています。
あまり知られていませんが、修繕積立金の積み立て方法には「均等積立方式」と「段階増額積立方式」があります。
「均等積立」は将来必要な額を、当初から均等に積み立てていく方式なのに対して、「段階増額積立」は当初の積立額は安く設定し、将来値上げをする方式です。「段階増額積立方式」の場合、築年数が長くなると、修繕積立金の負担が大きくなるということですね。
実際に都心部では、当初は1万数千円だった修繕積立金・管理費が、築30年を超えると10万円という話もあります。
「均等積立方式」で積み立てているマンションは全体の29.1%、「段階増額積立方式」で積み立てているマンションは全体の50.9%、「その他」「不明」が20%となっています。
「段階増額積立方式」が「均等積立方式」を上回っていますが、その傾向は近年建てられたマンションほど顕著となっており、2020年以降のマンションでは、「均等積立方式」で積み立てているマンションは8.1%なのに対して、「段階増額積立方式」で積み立てているマンションは85.5%に達します。
「段階増額積立方式」のマンションが、予定どおりに増額できた割合は6割に満たないですが、それは修繕積立金の延滞率の上昇と空室が原因です。
そうなると、必然的に計画的な修繕ができなくなってしまいます。
マンションの建て替え
マンションの建て替えは、全国でまだ282件しか事例がありません。
都道府県 | 件数 | 占率 |
---|---|---|
宮城県 | 2 | 0.7% |
埼玉県 | 13 | 4.6% |
千葉県 | 5 | 1.8% |
東京都 | 178 | 63.1% |
神奈川県 | 24 | 8.5% |
新潟県 | 1 | 0.4% |
愛知県 | 3 | 1.1% |
京都府 | 1 | 0.4% |
大阪府 | 29 | 10.3% |
兵庫県 | 17 | 6.0% |
広島県 | 1 | 0.4% |
香川県 | 1 | 0.4% |
福岡県 | 4 | 1.4% |
熊本県 | 2 | 0.7% |
沖縄県 | 1 | 0.4% |
全国 | 282 | 100 |
建て替えには区分所有者の「5分の4以上」の賛成が必要です。現在、これを「4分の3以上」もしくは「3分の2以上」に緩和する案も議論されていますが、いずれにせよ高いハードルです。
また、マンションのグレードによって異なりますが、建て替えに掛かる費用は、戸あたり数千万円になります。簡単に誰もが支払える金額ではないですね。
修繕積立金はマンションの建て替えのための解体費や建築費に使うことはできません。
高齢の所有者が多いと、建て替えずにこのまま住み続けたいと考えるでしょうから、建て替え決議の合意形成は更に難しくなりますね。
長期修繕計画は、25年から30年分を作成するのが一般的と先述しましたが、「築何年までは修繕で対応するか」を盛り込んでいる管理組合は少ないでしょう。一つの目安ですが、築30年を迎える頃には、「あと何年修繕で対応するか」「建て替えをするならいつが良いか」といったマンションの将来設計があるに越したことはありません。
そして、建て替えは東京都の割合が圧倒的に多く、次いで大阪府、神奈川県といった都市圏に集中しています。これは地方の場合、人口減少や高齢化が建て替えを更に困難にさせているものと思われます。
また、地方では古くなったマンションの建て替えは採算が取りにくい、という点も指摘されています。
かといって、解体して土地を売却するにも、解体費用を考えると採算が取れるマンションは多くありません。
建て替えができなくても、管理費・修繕積立金の支払いは続きますが、居住者の高齢化が進むにつれ、滞納も増えるかもしれません。そうなると、建て替えは更に難しくなりますね。
マンションを購入する際に考慮した項目では、「利便性」が72.6%と最も高く、続いて「間取り」が63.7%です。
「維持管理」においては、僅か11.5%にとどまります。
快適な生活をするために、「利便性」や「間取り」に意識が向くのは判りますが、「こんなはずではなかった」とならないためにも、30年後、40年後のことを考慮しておくと良いですね。
出所 国土交通省『マンションを取り巻く現状について』
国土交通省『令和5年度マンション総合調査』
(じゅうmado 提携FP 渡辺紀夫)